サイバーユニオン

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特集・規制緩和

特集・労働市場の規制緩和

ー序章ー
今回の選挙で比例に「自民党」と書いたのは全有権者の17%、小選挙区を入れても25%と自民党自体は議席数を減らしているにも係わらず、安倍政権は衆議院議員定数の3分の2議席という大きな大きな力を得ました。その力を持ってこれからの政治が動きはじめます。私たち労働者にとって怖いのは、安倍政権が岩盤規制改革の1つに掲げている雇用の規制緩和(=労働市場の規制緩和)の動きです。
緩和内容は、解雇の金銭解決を含む解雇の自由化、長時間労働につながる残業代ゼロ制度の新設、不安定雇用・低賃金の温床である派遣労働の常用代替化です。要するに、この規制緩和は、現在深刻な社会問題となっている働く貧困層を一層拡大することを目的とした労働者の生活基盤を脅かすものでしかありません。その実現のために政府は現行の法規制(労働者の健康や生活に配慮し保護するために設けられた規制)を緩和させようとしているのです。

それだけではなく、今回の規制緩和がさらに怖いのは、今働いている労働者だけではなくて、子どもや孫そして未来の労働者も含めた労働のあり方が根っ子から大きく変えられようとしていることです。
規制緩和というと、誰しも法律がどう変わるのかという点に着目しがちです。それも大事ですけれども、サイバーユニオンでは労働者の構えとして知っておきたい知識を3話発信し、最後に労働者および労働組合としての構えを皆さんと共有していきたいと考えています。これを機会に規制緩和に関する物の見方・考え方を共に磨きましょう。
〔2014年12月22日掲載〕

第1話 岩盤規制とまでいわれる規制の正体は何か

  • ◆岩盤規制の正体は

    皆さんは岩盤規制改革というとどんなイメージを持たれますか。岩盤にドリルで穴を開けている図が定番になっている気もしますが、その図を見るといかにも大変な作業をしている感じがしますよね。では、その岩盤規制の正体をご存じですか。
  • その正体は、実は、労使関係(労働者と経営者との関係)が平等でない産業革命以前から労働者が身を持って体験してきたことに由来します。その体験とは労働者の雇用と生活を破壊する今日でいうところの所謂「労働災害」や「著しい低賃金」のことです。当サイトの学ぼうで人間は古来より働いてきたことをお話しました。その人間労働というものはILO(国際労働機関)が打ち出しているディーセントワークのとおり「働きがいのある人間らしい労働」でなければなりません。その人間労働の基本的な考え方から労働災害を防止し低賃金を抑制するために、労働の歴史の中から徐々に徐々に整理され規制がつくられてきました。それが政府が岩盤規制と呼んでいるものの正体です。これは労働者が人間として生きるための生命・健康・生活の維持にはなくてはならない必然的な規制です。
  • それと同時にこの必然的な規制を実現させるために、日本では幸福権・生存権・勤労権・勤労条件の基準・団結権・団体交渉権・団体行動権などを労働者の権利として憲法で決めています。そして、憲法が求めている労働者の権利を実現するために、労働法によって労働市場を具体的に規制して労働者の権利を法的に確立しています。これが労働法規制(=雇用規制)というもので、憲法そして労働法および労働者の運動によってガッチリ整備しガードされているから岩盤規制と呼ばれているのです。
  • ◆3つの重要な規制と現行規制の基本的な考え方

    労働法の規制の中でもとくに重要な規制、それは解雇規制・労働時間規制・非正規雇用規制の3つです。そして、現行規制の基本的な考え方はつぎのようになっています。
    1. 解雇規制の基本は「継続的雇用は保障される」
    2. 労働時間規制の基本は「長時間労働を防ぐ」
    3. 労働者派遣法の根底にあるのは「常用代替防止」
    1945年から現在まで労働法の改正は幾度となく行われてきました。しかし、その過程でもずっとこの3つの基本的な考え方は踏襲され変わることはありませんでした。しかし今回は違います。アベノミクスの規制緩和はこの3つの労働の基本的なあり方を根底から覆そうとしているのです。
  • 今、政府が穴を開けようとしている岩盤規制は長い長い年月の中で犠牲になった多くの労働者、そして低賃金・長時間労働に抗した労働者の闘いの結果獲得したものです。岩盤規制があってこそ労働者はどうにか労使関係の平等を確保できています。資本主義社会では労働者と経営者の力の差は歴然としています。岩盤規制がなければリストラや賃下げ・長時間労働等に抗することはできません。「ローマは一日にしてならず」不断の努力なしには労使関係の平等を確立することは難しいのです。
  • 〔2014年12月23日掲載〕

第2話 規制緩和の過去・現在そして真の狙いは

◆過去からの教訓

現在の日本は雇用が不安定で労働者は長期的な人生設計をつくれなくなっています。それは過去の規制緩和によって本来なら守られるべき労働者の権利が壊され、低賃金で働く労働者が増えたからです。派遣労働が定着し、企業にとっては人件費を抑えられ、雇用調整つまり解雇がしやすくなったのです。それに対して労働者はというと、正社員は労働強化され、非正規労働者は雇用不安・低賃金に困窮し、苦しい生活を強いられています。これは労働市場の需給関係が労働者にとって著しく不利になった結果だといえます。
  • ◆議論の発端と政権の覚悟

    2012年12月に第二次安倍政権が発足して、翌年1月の所信表明演説では「世界で一番企業が活動しやすい国をつくる」と首相は述べました。また雇用については産業競争力会議第3回雇用・人材分科会に提案された「『世界でトップレベルの雇用環境・働き方』を目指してー雇用改革・労働市場改革の検討の枠組み」の中で「雇用や賃金の改善は、働き方の雇用規制の強化ではなく、経済成長とその結果である。雇用事業の拡大からしかそれは生まれないのだ。そのために労働法規制の緩和を求める」という考え方が示されました。ここが今回の規制緩和議論のスタート地点、ベースとなる考え方です。

    そして、岩盤規制改革に対する首相の覚悟は、たとえば先の臨時国会での所信表明演説「 この2年間で、あらゆる岩盤規制を打ち抜いていく、その決意を新たに、次の国会も、更にその次も、今後、国会が開かれるたびに、特区制度の更なる拡充を、矢継ぎ早に提案させていただきたい」という言葉に表れています。この政権は原発問題でも沖縄の基地問題でもそうですが、国民が反対しても知らんぷりで事をすすめる政権です。その政権が特区制度という変則的な手段を使ってでも何が何でもやり遂げるという覚悟を見せているのです。これには労働者も緊張感をもって事に当たらなければなりません。

    ◆アベノミクス規制緩和の特徴

    安倍政権の成長戦略アベノミクスの政策は株価偏重主義です。株価を上げるためなら邪魔な市場規制は排除するとして、5月のロンドン・シティー講演で安倍首相は「労働規制の改革がこの1年間でいかに難しいかが分かったが、改革を成し遂げないと成長はできない」と発言しています。さらに自民党の政治献金のドル箱である財界の既得権益を守るために、産業競争力会議や規制改革会議から労働者代表を排除して、財界が宿望する解雇の自由化や残業代ゼロ制度、派遣労働の常用代替化をストレートに受け止めて着々と実行に移しています。このように安倍政権は、労働法による労働市場の規制は企業の自由な活動と成長の阻害要因であると捉えると共に、規制緩和をアベノミクスの中で非常に重要な政策的課題として位置づけています。

    また、わが道を突き進む安倍首相の政治手法は、特定秘密保護法は不意打ちのような形で実現させましたし、7月には憲法解釈で違憲とされてきた集団的自衛権行使を閣議決定で容認し、川内原発など原発再稼働に向けた手続きもすすめ、選挙直後には原発再稼働関連の動きが活発化しました。今回の選挙も政権延命のための不意打ちでした。民主国家・法治国家である日本のリーダーたる首相が憲法や法律、民意をないがしろにする姿は目に余るものがあります。先の臨時国会でも、最終日の午後に専門知識を持つ有期労働者について無期雇用に転換できるまでの期限を延ばす(大学の講師等の期限を5年から10年へ)有期雇用労働者特別措置法を可決、成立させるなど強引かつ性急な手法で規制緩和の一部をすでに実行してしまいました。専門家によると「行政は、異議申し立てをされないようにスケジュールを組むのが得意で、安倍政権は特にこの点で秀でている」のだそうです。主権者である労働者自身がもっとしっかりと政権を監視しなければ失ってからでは遅いのです。

    ◆安倍政権の真の狙いー憲法9条同様、労働でも「改憲」の臭い

    憲法第27条の雇用と労働条件は労働法規制があってはじめて実現するものですが、今回の規制緩和は安定雇用と長時間労働防止という規制の根幹ともいうべき部分を外そうとしています。したがって、この規制緩和が実現すれば憲法を知らないうちに改悪されていたというところにつながります。27条を改憲されてしまえば、つぎは28条の団結権・団体交渉権・団体行動権(労働三権)のところもほとんど意味をなさなくなってしまうのです。つまり解雇や残業代未払など争議の法的根拠がなくなる心配があります。それは何よりも労働者がもっともっと厳しい状況に置かれるということで、労働者にとっては見過ごせない重要な問題です。
    〔2014年12月24日掲載〕

    第3話 なぜ労働者が強く反対するのか

    労働者が働くときには、経営者との間に必ず労働契約を結んでいます。そのことを労働者が認識しているかどうかに係わらずこの契約は結ばれています。形式としては書面を交わす場合もありますし、口頭で結ぶ(口約束)こともあります。ただし、口約束はトラブルになり易く労働者が損をすることが多いので少なくなってきています。そして労働者はこの契約に基づいて働きます。
    しかし一日の大半の時間を労働に費やしている労働者は、「もっと自由な時間がほしい」、「もっと健康的に、もっと文化的に、もっと豊かに、人間的に働きたい」、そのために「もっと稼ぎたい」「給料を上げたい」と願って、労働者・労働組合はその運動の歴史の中で要求を勝ち取り、労働規制を確立してきたのです。アベノミクス・規制緩和はそんな労働者・労働組合が長年積み重ねてきた努力を「水泡に帰する」ものです。私たち労働者が規制緩和に強く反対するのは、主につぎの2つの理由からです。
  • ◆働くときに結ぶ労働契約の非対等性と契約の自由

    最初にあなたが労働契約を結んだときを思いだしてください、イメージしてみてください。あなたは労働契約をどうやって結んでいますか。経営者から提示された労働条件に同意しているだけではありませんか。多少の不満はあったとしても就職したいがために目をつぶっているのが現実ではありませんか。また働きはじめて「約束が違う」「こんなはずじゃなかった」と思ったとしても、労働者と経営者との力関係によって諦めているところが多いのではないでしょうか。要するに労働契約では多くの場合、労働条件は事実上経営者が決定したものを労働者が容認するという形になっていることが多いのです。そこには弱い立場の労働者と強い立場の経営者との存在があります。労働契約はその開始から終了(就職から離職)までこの大きな格差、とりわけ交渉力の格差に晒されるわけです。

    しかし法律には、「労働契約は、労働者および使用者(経営者)が対等の立場における合意に基づいて締結し、または変更すべきものとする」(労働契約法第3条1項)と決められています。これは労働契約には、市民法の契約の大原則である契約自由と契約自治という2つの原則が適用されているからです。
    この弱い立場と強い立場との間で自由な契約を取り結ぶとなれば、それは必然的に力の強い立場の考え方が反映されるわけです。つまり労働条件の一方的な決定が経営者からなされるのです。たとえ労働者がそれに反対しても受け入れざるを得ない、合意が成立してしまうのが現実です。

    労働法規制というのは、契約自由・契約自治に対して、法律が介入しているもので、その介入目的は、恣意的な解雇からの保護、長時間労働の抑制、低賃金労働の排除など労働者保護にあります。そして、憲法第3章の「国民の権利および義務」のひとつに憲法第27条2項「労働条件の基準は法律でこれを定める」が存在しているのは、契約の自由に法律が介入することは、労働者の基本的人権であると位置づけられているということです。
  • ◆労働力は商品だが、労働は商品ではない?

    ILO(国際労働機関)フィラデルフィア宣言(1944)は、 ILOの基礎となっている根本原則として、「労働は商品ではない」を掲げている。
    「労働は商品ではない」の意義は、労働は商品として扱われてはならないという意味であり、これは、労働を商取引の対象として、契約自由の原則に委ねるべきではないことを意味する。また、 ILOは現在、「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい労働)」を活動の中軸的スローガンとしている。
    「労働は商品ではない」という原則を守り、「働きがいのある人間らしい労働」を実現するためには、雇用・労働条件にかかわる労働者保護ルールの設定、そのための労働法規制が必要不可欠である。労働法規制は誰のためか、と言えば、ほかならぬ労働者のためであり、「規制なければ労働なし」である。
    労働法制の規制緩和を唱える立場は、成長戦略実現のために、「岩盤規制」に切り込むという。労働法規制は、まさに、労働者保護のための岩盤規制であり、これに切り込みなどと言うのは、労働法規制の存在意義を否定するに等しい。

    (連合総研レポート2014年5月号No.293に掲載された弁護士宮里邦雄氏の『アベノミクスと労働法制の規制緩和』より一部抜粋)
    (2014年12月26日掲載)

    第4話 労働者および労働組合の構え

    第三次安倍政権が12月25日に発足しました。安倍首相は会見で「アベノミクスの成功を確かなものとしていくことが最大の課題」と位置付け、「農業、エネルギー、雇用、医療分野で大胆な規制改革を断行していく。通常国会に関連法案を提出する。臨時国会で廃案になった国家戦略特区法案は、大胆なメニューを加えて通常国会に提出する」と岩盤規制改革の断行を宣言しました。「世界で一番企業が活動しやすい国をつくる」ために、一切の規制を外し企業の自由に委ねようとするかのような政府、労働者いじめの安倍政権に対して私たち労働者・労働組合は何ができるのか。最後に規制緩和に対する労働者・労働組合の構えについてお話します。
    それには労働者個人でできることと労働組合の一員だからこそできること、個人と団体という2つの面があります。規制緩和を阻止するために、それぞれの立場で何をしたらよいのかを考え、行動につなげて行きましょう。
  • ◆三つの闘いの実践ー対権力・対資本・対自己ー

    東京一般では私たち労働者のかかえる課題を解決するには一方向だけの取り組みでは足りないと考えて、この三つの方向性「対権力・対資本・対自己」での取り組みが必要ではなかと大会に提起して、1971年よりこの『三つの闘い』を実践しています。そこでインターネット上でもこれを実践することが必要ではないかと考えました。対権力・対資本・対自己の順に活動を提起していますが、順番には拘りません。どこからでも結構です。自分のできるところからはじめてください。
  • 権力との闘い
    労働法の規制緩和の動きはマスメディアで地味に取り上げられています。これからその動きに注視して、労働者として感じたことなどの声を上げてください。当ユニオンではメインメニューの「語り合おう」で、その声を募集しています。

    資本との闘いー職場でできる目配りー
  • 何をどういっても労働者の原点は職場です。何事も職場からはじまるのです。自分の足元をまずしっかり固める活動をつぎの2つの視点を持って行いましょう。
    1. 規制緩和によって労働者がどう縛られていくのか
    2. 体制がつくられることによって経営者がそれにどう対応してくるのか
    この動きに気付いた方は声をあげてください。当ユニオンのメインメニュー「語り合おう」ないしは 画面右上の無料労働相談サイト「お助けねっと」に気軽にアクセスしてください。
  • 自己との闘い
  • 「できればこういう問題は避けてとおりたい」、「関わりたくない」というのが労働者一個人の本音ではないでしょうか。
    しかし、規制緩和の問題をそのままにしておけば、生涯派遣で低賃金の労働者にされたり、正社員であっても長時間労働・残業代ゼロということで実質的な低賃金を余儀なくされたり、長く安定した働き方をしたくても企業・経営者の都合で解雇されたりと、自分で自分の首を絞めることにもなりかねません。まだ間に合います。
    アベノミクス・規制緩和を切っ掛けに労働法規制で守られている労働者というのがどれだけ大事なことなのか。そのことをまず知ってください。知らなければ闘う気持ちも湧きません。そういうことに臆せずがんばれる気持ちを養うために、当ユニオンの「学ぼう」、「語り合おう」に参加してください。
    今、自分はどういう状況で働いているのか働く現場の声を「語り合おう」にお寄せください。

    ◆労働者が求める規制のしくみの整備・強化

    経済という言葉は「経世済民」から取られたもので、本来は「民が幸せに暮らせる手段」を指すものだそうです。しかし、日本の労働者、とくに若者の3分の1は年収200万円以下だといいます。さらに職場にはうつ病など心の病やセクハラ・パワハラ・マタハラなどハラスメントが横行し、長時間労働から過労死・過労自殺が増えています。私たち労働者は、一部の大企業だけが内部留保を増やすだけの経済政策は望んでいません。労働者が「人間らしい生活を実現する」社会を求めているのです。そのためには、同一労働同一賃金や均等待遇、そして長時間労働を防ぐ労働時間の量的規制(勤務と勤務との間の最低休息時間の確保等)などなど、安心して働ける職場と生活できる賃金が不可欠です。(おわり)
    (2014年12月27日掲載ー最終話ー)