サイバーユニオン

働く知識のホームページ〔労働者として人間的に成長することを目的としています〕

労働時間法制の改悪

労働時間法制の規制緩和(改正労働基準法案)とは

3日に閣議決定された労働基準法の改正案は、私たち労働者の労働条件に激震を走らせたようなものです。しかも、その震源地は官邸付近なのですからたまったものではありません。

2007年第一次安倍内閣のときに、大きな社会的批判にあって断念した法案「ホワイトカラーエグゼンプション」を、第二次安倍内閣では成長戦略の柱の一つに位置づけ、今年にはいって「高度プロフェッショナル制度」と名前を変えて復活させました。同制度の本家本元アメリカでは、「この制度は現代の経済から見て時代遅れになっている。だから何100万人もの米国人が時間外労働賃金の保護を受けられず、最低賃金の権利さえも保障されていない」と、昨年3月オバマ大統領は、制度の現代化にむけた見直しを労働長官に命じました。

「そのような時代遅れの制度をあえて日本で導入する必要があるのだろうか。政府は、私たちの労働条件にかかわる何を変え、どうしようとしているのだろうか」、この疑問から2月・3月に労働法学者や弁護士、国会議員など、日常的に労働法を扱っている専門家の方々が開いた集会に参加してきました。
2月の集会で、こんな発言をしている人がいました。
「今、非常にやっかいなことは、今回の法案がマスコミによって、およそ正しく報道されていないということです」、「記者の方もあまりよく知らずに、そのまま出てきたもの(政府説明)を報じているという部分があるというふうに思っています」と。
(2015年2月18日「ホワトカラーエグゼンプション反対緊急集会」にて)
テレビ・新聞各社は、「働いた時間ではなく成果に賃金を払う」、「脱時間給」、「早く帰れるようになる」などと連発し、盛んに報道しています。しかし法案要綱のどこを見ても、そんなことは書かれていません。さらに、「この岩盤規制改革が経済成長につながる」と強調して報じていますが、経済という言葉は、世を治め、人民を救うという意味の『経世済民』からきています。そのことを考えると、労働者の犠牲の上に成り立つアベノミクス・経済成長など本末転倒なのです。

ニュースでは知り得ない情報をちりばめながら、改正労基法案の労働時間規制の緩和についてわかりやすく発信していきます。サイバーユニオンの会員はもとより、東京一般の組合員・準組合員、そして当ユニオンの訪問者・閲覧者の皆さん、労働時間規制についての関心の第一歩を共に踏み出しましょう。

  1. 法改正のスケジュールと特徴(2015/4/5)
  2. 法改正、手続き面での問題(2015/4/5)
  3. 自由のための労働時間規制(2015/4/5)
  4. 高度プロフェッショナル制度とは(2015/4/20)
  5. 裁量労働制の改正案とは
  6. 生活の時間から考えた長時間労働の問題
  7. ホワイトカラーエグゼンプションー米国の現状は日本の未来の姿
〔2015年4月5日掲載〕

1.法改正のスケジュールと特徴

政府は来年4月の導入にむけて、経営者側の意向に副った労働基準法の改悪(高度プロフェッショナル制の導入、裁量労働制の大幅拡大)を猛スピードですすめています。法改正にむけた日程および法案の特徴はつぎのとおりです。
法改正にむけた政府のスケジュール(2015/4/3現在)
 3月2日厚労大臣に法案要綱を答申4月3日閣議決定統一地方選後、5月連休明けに国会審議入り今国会で法案成立来年4月1日法施行
5月連休明けの国会審議とは、改正労基法案の審議に安保法制の審議を重ねてくる可能性大です。政府は、会期を延長してでも法案を成立させる構えですから、何が何でも入れてくるのでしょう。
国会議員によれば、「1カ月あれば法案は通る」。「あっという間に法案成立!」という事態にならないためにも、多くの労働者がこの法案に関心を寄せて、声を上げ、世論の力で政治を動かしましょう。そのためには、まず「知る」ことからはじめてください。
法改正の特徴ー労働者の視点でー
今回の改正は、労働基準法の労働時間規制を大幅に緩和して、長時間労働・残業代ゼロを合法化するものです。つまり、労働者からさらに厳しく搾取することによって企業収益を増大させ、アベノミクス・経済成長を達成しようというものです。

△まず大きな特徴は、法案のつくられる過程において労働者の声が全く無視されたことです。
日本は民主主義の国です。ならば労働法の当事者である労働者・労働組合の声を聞くのは当たり前のこと
。ILO(国際労働機関)144号条約等、世界的に見ても当然のことです。それを一切無視して、閣議決定を一方的にやって、労政審でも(閣議決定の)結論ありきで労働者代表委員の反対を押し切って答申をだしてしまう。全く国民・労働者に対して失礼極まりない態度だ!

△つぎに法改正の最大の特徴は、1日8時間・週40時間、休憩・休日、時間外労働・休日労働など、すべての労働時間規制を外した「高度プロフェッショナル制度」の新設を柱に、企画業務型裁量労働制の対象範囲の大幅な拡大と手続きの簡素化、そしてフレックスタイム制の見直しです。
労働時間は労働条件の中でも、労働者の命と健康にかかわる重要な条件。その命と健康を守る必要から法律で決めているのが労働時間規制です。なにも日本だけが特別なのではありません。ILO(国際労働機関)の条約にもある世界標準の規制です。世界共通、当たり前の規制です。人間労働の根っ子ともいうべき労働時間規制を根こそぎ抜き去るような法改正は危険です。
労働時間規制からすべて外れてしまえば、「長時間労働野放し、残業代ゼロ」社会が待っているだけです。
〔2015年4月5日掲載〕

2.法改正、手続き面での問題

労働時間法の改正の状況について、この間の動きがわかるように集会で報告された内容を下の表にまとめました(3月6日『「生活」から考える労働時間規制』集会、棗一郎弁護士からの報告を中心にまとめたものです)。
 2014年
6月24日
 安倍政権
成長戦略を閣議決定
△労働法制、とくにホワイトカラーエグゼンプションと裁量労働制の緩和をやることを閣議決定した。
 9月から
年末
閣議決定をうけて
労政審の議論が本格的に始る
既に、閣議決定でホワイトカラーエグゼンプションと裁量労働制の緩和をやると上から枠がはまった形での議論開始、結論は見えていた。
労政審は本来、労働政策について中立的な立場の公益員と労使双方が意見を闘わせて、どういった法制をつくっていくのかを議論する場です。
しかし、最初から結論ありきという議論状況で進んでいったことが、
今回の大きな特徴でした。

△当初は使用者(経営者)代表委員もホワイトカラーエグゼンプションには、「こんなの入れていいのか」って感じで消極的な意見でした。ところがいつの間にか言わなくなった。閣議決定の縛りがあって言えなかったという状況のようです。

△むしろ使用者は、企画業務型の裁量労働制の緩和の方を最初から一致して求めております。

△去年の年末まで労政審は、ホワイトカラーエグゼンプションの議論をしていました。
高度プロフェッショナル制なんて全く議論されていませんでした。
 12月14日 衆議院議員総選挙  △突然の解散で労政審の議論が約1カ月停止。
 2015年
1月
 労政審の議論 △総選挙が終わって、年が明けたら行き成り「高度プロフェッショナル制」がポンと出てきました。

そこから1カ月しか議論せずに答申してしまったと、拙速な議論でした。
2月13日 労政審が厚労大臣に建議 △労働者の要望である時間外労働の上限規制インターバル規制は、建議には入れることができましたが、法案には盛り込まれませんでした。
 建議より抜粋
なお、時間外労働に係る上限規制の導入や、すべての労働者を対象とした休息時間(勤務間インターバル)規制の導入については、結論を得るに至らなかった。労働者代表委員から、長時間労働の抑制が喫緊の課題となる中、過労死その他長時間労働による労働者の健康被害の予防とワーク・ライフ・バランスの確保を図るため、実効的な労働時間法制を整備すべきであり、とりわけ、すべての労働者を対象に労働時間の量的上限規制及び休息時間(勤務間インターバル)規制を導入すべきとの意見があった。
 3月2日 労政審が厚労大臣に改正法案要綱を答申  
4月3日   改正法案要綱を閣議決定  
原発再稼働や沖縄の民意が無視されているのと同様に、労基法改正手続きにおいても労働者の意見が無視されています。民主主義の社会で民意が無視されるという異常な事態が起きています。
〔2015年4月5日掲載〕

3.自由のための労働時間規制

そもそも労働時間規制というのは、産業革命以降の社会的発展の過程で形成された歴史的所産といえるものです。
 今年も、もうすぐ86回目のメーデーを迎えます。メーデーは、1886年にAFL(アメリカ労働総同盟)が結成され、アメリカのシカゴで8時間労働制を求める統一ストライキを行ったのが起源です。「8時間は仕事のために、8時間は休息のために、8時間は俺たちの好きなことのために」という目標を掲げ、これに対する弾圧に抗議してAFLが呼びかけて第1回メーデーが開催されました。この賃金と労働をめぐる運動は、1938年公正労働基準法(米国)という形で結実しました。
日本でも1945年8月の敗戦後、アメリカの占領下で民主化政策がすすめられました。敗戦からわずか4カ月、1945年12月には労働組合法を公布して労働組合をつくることが認められました。翌1946年には戦後初のメーデーが開催され、1947年4月の労働基準法公布で8時間労働制が入れられた、という歴史的経過があります。
2月の集会で、時間外労働に関するもう一つの考え方・見方を学びました。

「時間外労働というのは、労働者の自由を確保するための基本的人権というのが、1日8時間、週40時間というラインであるわけです。それを侵害して働かせた経営者に対して経済的な制裁金が割増賃金です。これが存在することによって労働時間を短く短縮するという経済効果があるわけです」と、残業代不払いという違法労働や経済損失の面だけではなく、人権侵害からのアプローチを弁護士さんは指摘されていました。
(2015年2月18日「ホワトカラーエグゼンプション反対緊急集会」にて)
21世紀の現代でも、ブラック企業にブラックバイトと時間外労働や長時間労働による過労死・過労うつの被害は絶えません。そんな弱い労働者たちが、労働基準法を知って、違法なことをされていることを知って、はじめて怒りが湧き、闘いに立ち上がっていく。労働者にとって労働法は、人間として立ち上がっていくための武器です。力の源泉です。その労働法が今壊されようとしています。これを阻止して、その先に、あるべき労働法制をつくっていくという展望をもって運動をすすめていきましょう。
〔2015年4月5日掲載〕

4.高度プロフェッショナル制度とは

この制度の正式名称は、「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」といって、労働時間、休憩、休日、深夜割増賃金に関する労働基準法の規定が適用されない新たな制度です。

新制度の特徴
  1. この制度の対象となればいくら長く働いても残業代はなし
  2. 労働者に裁量権はまったくなし
  3. 賃金はあくまで成果に対して払われると政府は喧伝しているが、新制度の法案に賃金に関する定めはない
    むしろ成果主義賃金に誘導する政治的な意図を持ったデマである
  4. これまで日本の法律にはなかったインターバル規制という長時間労働を防ぐ仕組みが選択制ではあるが、はじめて導入される
新制度の適用条件
 年収  1,075万円以上 この金額と職種はあくまでも目安
本当の年収条件・職種条件は、法律が国会で成立した後に、省令で決められる。そのため、新制度開始時の年収や職種は今より改悪される可能性が高い。

4月3日に閣議決定された法案に対して、経団連の榊原定征会長は6日の会見で「極めて限定した社員からスタートするが、最終的には年収要件の緩和や対象職種を広げる方向で考えていかないといけない」と述べた(2007年の改正で経団連は年収400万円を主張)。
 
 職種 金融ディーラー
アナリスト
金融商品開発
コンサルタント
研究開発など
 本人の同意が必要  本人同意が条件となっているが、会社と労働者の交渉では、会社側が圧倒的に強い。

新制度が成果主義賃金制度に組み込まれてしまえば、適用に同意しなければ昇給も昇進もできない。

新制度を採用の際に労働条件とされてしまえば、同意しないなら就職もできない。

新制度の問題点
法案を確認するかぎり新制度は、会社の意のままに労働者を際限なく働かせることができる制度です。長時間労働による過労死・過労うつ等が社会問題化している中で、長時間労働の抑制策が極めて不十分なまま、健康確保の措置だけに力点が置かれた偏った働き過ぎ防止策です。そのうえ過労死しても会社に責任を問うことができません。労働者の命と健康を守るために、これからはじまる国会審議では次の点について議論を深めるべきです。
  1. 人件費圧縮のために制度が悪用される恐れをどう防ぐのか
    ①業務命令に歯どめがない、②過労死の責任を問えない、③残業代ゼロで本当によいのか、④労働基準監督官が取り締まる法的根拠がないなど
  2. 年収が高ければ労働者の命と健康を犠牲にしてよいのか
  3. 本人の意思が会社との関係でどれだけ尊重されるのか
  4. 法文があいまいで当事者(労働者・経営者)にわかりにくい
以下、この制度の詳しい説明と問題点を次の10項目に分けて考えていきます。
  1. 安倍政権にとって特別な意味を持つ新制度
  2. アメリカのホワイトカラーエグゼンプションに倣った制度
  3. 労働時間規制から除外するとはどういうことか
  4. 新制度の狙い
  5. 対象となる労働者の範囲ー前回との比較ー
  6. そもそもなぜ時間ではなく成果なのか
  7. もともと日本の労働時間規制はゆるい
  8. 問題はどうやって働き過ぎを防ぐか
  9. 労働者と経営者との力関係はこうなる
  10. 法案要綱から抜粋

1.安倍政権にとって特別な意味を持つ新制度

8年前第一次安倍政権は同じような制度を導入しようとしました。この時政府は、日本の競争力回復のためには雇用制度の改革が必要だとして、労働ビッグバンという改革の大方針を掲げて、その柱として残業代ゼロ制度を導入しようとしました。しかし世論の強い反発を受けて、導入を断念せざるを得ませんでした。
今回安倍政権は、日本の雇用慣行を改革を阻む岩盤規制にたとえ、その岩盤を突破する成長戦略の柱として、再び残業代ゼロ制度の導入をめざしています。
 8年前第一次安倍政権  今回の安倍政権
 労働ビッグバン=改革の大方針
その柱に「残業代ゼロ制度」



世論の強い反発により断念
 日本の雇用慣行を岩盤規制にたとえ、
成長戦略の柱に
再び「残業代ゼロ制度」


2.アメリカのホワイトカラーエグゼンプションに倣った制度

   アメリカのホワイトカラーエグゼンプションというのは、賃金は働いた時間の長さではなく、あらかじめ定められた俸給基準により支払う制度で、ホワイトカラーつまり事務職のうち一定の条件の人は、労働時間の規制からエグゼンプションつまり除外するというものです。


3.労働時間規制から除外するとはどういうことか

  労働時間規制から除外する、外すとはどういうことか
会社が労働者を働かせることができる時間は法律で決まっています。1日8時間、週40時間までが原則です。
これを超えて働かせる場合には、会社は労働者が働いた時間に応じて割増賃金、つまり残業代を支払わなければなりません。労働者の健康や権利を守るためです。これが労働時間規制です。

新制度はこの規制が適用されなくなります。
だから、労働者をいくら働かせてもよいということになり、しかも残業代はゼロ、会社は残業代を払わなくてよいのです。


4.新制度の狙い


会社で働いている人のうち管理職の多くはすでに残業代はなしになっています。その残業代なしの人を管理職より下の一般職の領域にまで広げるのが新制度の狙いです。


5.対象となる労働者の範囲ー前回との比較ー

 前回、2007年案    高度プロフェッショナル制度
 900万円以上    1,075万円以上
 管理職一歩手前    高度な専門職
     
20万人   対象
労働者数
 数万人
前回と違って今回は対象となる労働者をグッと絞り込んで限定的な形ではじめようとしているところが特徴です。労働者派遣法と同様に「小さく生んで、大きく育てる」危険性大です。


6.そもそもなぜ時間ではなく成果なのか

経営側のいう最大の理由は日本の労働生産性の低さです。

ご覧のとおり日本は先進7か国のうちで最低で、1時間に生み出す価値が40ドルあまりです。アメリカ、フランス、ドイツに比べると日本は7割程度しか価値を生み出していないという結果です。
つぎに経営側・労働側双方の主張をわかりやすく表にまとめました。

 経営側の主張   労働側の主張
 日本の労働生産性は低い
これは残業すればするほどお金がもらえる長時間労働に原因がある。成果に対して払うことにすれば無駄な残業は減り、生産性も上がるはずだ。
 長時間労働の原因は、過大な業務量だ
そもそも長時間労働がなくならないのは、経営側が残業しないと終わらない、残業が前提の多すぎる業務量を課しているためではないのか。
今の業務量が減らないまま新制度を適用すれば、文字通り「残業代がゼロ」になるだけで、単に人件費を抑えようとしているだけだ。
課題は、”人件費圧縮のために制度が悪用される恐れをどう防ぐのか”、また”本人の意思が会社との関係でどれだけ本当に尊重され得るのか”という点にあります。


7.もともと日本の労働時間規制はゆるい

 労働時間規制 会社が労働者を働かせることができる時間は、3で述べたとおり法律で決まっています。
しかし、労使が労働基準法第36条に基づく協定、いわゆる36協定さえ結べば事実上時間外労働は厚労大臣が定める限度基準内で許されるというのが、今の仕組みです(ただし特別条項付協定あり)。これが深刻な過労死問題にもつながっているわけです。

そのことは、昨年(2014)日本人の長時間労働が統計をさかのぼれる1993年以来、最長の年173時間になったことに加えて、過去5年間の労災申請および認定状況から、長時間過重労働による過労死・過労自殺・過労うつなど健康障害が広く日本の職場にまん延している現状からも裏付けられます。

 36協定で
長時間労働可能


過労死の要因に


8.問題はどうやって働き過ぎを防ぐか

 新制度の導入条件 働き過ぎを防ぐために新制度では、健康確保措置を設けることを義務づけています。

健康確保措置には3つあります。
まずインターバル規制は、1日の仕事が終わった後、翌日の仕事を始めるまでに必ず一定の間隔、インターバルを置かなければいけないというものです。
これはEU(欧州連合)で行われている制度で、EUではこの間隔は11時間と決められています。つまり差し引き1日の労働時間はどんなに働いても13時間が限度ということになります。
2つ目は月間の労働時間の上限を設定する。
3つ目は年に104日の休みを必ず与える。これは均すと週休2日を実現することになりますが、原則は4週に4日与えればよいとなっています。この3つのうちのいずれかを労使で協議して選択することが新制度導入の条件です。

特に1つ目のインターバル規制については、労働側が以前から日本にも導入するよう求めていたものですが、経営側は日本の雇用環境には馴染まないとして慎重な姿勢をとってきました。
それが今回漸く日本で初めて法律化される意味は大きいと思いますが、働き過ぎ防止という意味では不十分です。労政審で労働側委員が「すべての労働者を対象にした労働時間の量的上限規制および休息時間(勤務間インターバル)規制の導入」を求めてきたように、新制度に限定せず、広く一般の労働者にもインターバル規制と上限規制を適用すべきです。
 健康確保策
インターバル規制
月間の労働時間に上限
年休104日
労使でどれかを選択


9.労働者と経営者との力関係はこうなる

この制度の適用が認められた労働者の賃金・労働時間等
賃金
高度プロフェッショナル制度について政府は、「働いた時間ではなく成果に対して賃金を払う」新制度であると説明している。

しかし法案要綱を確認するかぎり、「その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる」業務と規定しているだけで、この制度に賃金に関する定めはない。
「時間ではなく成果に賃金」というのは政府のデマじゃない。

労働時間
  • 労働者の健康確保だけでなく8時間の自由な生活を保障する、人間労働の基本ともいえる8時間労働制とは全く無関係な働き方。
    労働基準法の労働時間規制から外れるということは、労働基準監督官が違反者を取り締まる法的根拠がなくなり、監督権限がないということを意味します。新制度で長時間過重労働になったらどうしよう不安だな~。
  • 労働者は36協定なしに長時間労働させられ、割増賃金は一切支払われない。
    新制度に近い管理職でも深夜労働には割増賃金を支払う必要があるのに、新制度にはその義務がない、管理職より不利な制度です。
  • 労働者に裁量権は一切ない。
    ①自分の労働時間を決定する裁量権が全くない
    ②自分のやる業務の量も遂行方法も決められないし、出退勤の自由もない
    ③仕事の総量に対する裁量権もない
    管理職や裁量労働制は前提条件として、労働者本人に労働時間の裁量権があります。
    しかし新制度の法案要綱に、労働者の裁量権について書かれている箇所はありません。要するに、裁量労働制よりもっともっと労働者に自由のない、縛られた制度となっているのです。

    仕事の総量に歯どめがなければ、いくらでも業務命令できます。長時間労働を助長するようなものです。
長時間労働による過労死・過労うつになった場合
  • 新制度で過労死・過労うつになったとしても、労災認定されない可能性が高い
  • 経営者に過労死に対する民事上の責任を問いにくい。
    この法案には過労死認定時間を超える労働を禁止する措置がないために、過労死の責任を追及するのが困難です。その理由は次の「経営者の権限は絶大」をご覧ください。
 経営者の権限は絶大
  • 新制度を適用された労働者は、経営者の指揮命令や業務命令に100%従わなければならない。
  • 1日24時間、1年365日休みなしで働けと命じることも合法。
    経営者にとって一方的に有利な制度、まさに「(労働者を)定額使いたい放題」の法案です。
  • 経営者は対象労働者一人ひとりの労働時間を管理・記録する義務がない。
    これでは過労死した労働者が何時間働いていたのかわかりません。また「健康管理時間」は実労働時間ではない、つまり証拠を残さない制度設計だから過労死基準の労働時間を認定できない仕組みです。労働者の命と健康が危険に晒されます。
  • 経営者に割増賃金を支払う義務がない
    経営者に対する経済的な制裁金の側面がある割増賃金、その支払い義務がなければ、経営者に長時間労働を抑制しようという歯止めはかかりません。


10.法案要綱から抜粋

 労働基準法等の一部を改正する法律案要綱
六、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)

1.賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会が委員の5分の4以上の多数による議決により(一)から(八)までに掲げる事項について決議をし、かつ、使用者が、当該決議を行政官庁に届け出た場合において、(二)に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下「対象労働者」という。)であって書面等の方法によりその同意を得た者を当該事業場における(一)に掲げる業務に就かせたときは、労働基準法第四章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しないものとすること。ただし、(三)及び(四)の措置を使用者が高じていない場合は、この限りではないものとすること。

(一)高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせる業務(以下「対象業務」という。)

(二)特定高度専門業務・成果型労働制の下で労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であって、対象業務に就かせようとするものの範囲
イ、使用者との間の書面等の方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
ロ、労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

(三)対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(1の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(以下「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

(四)対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
イ.労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、深夜業の回数を1箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
ロ.健康管理時間を1箇月又は3箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
ハ.4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を確保すること。

(五)対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であって、当該対象労働者に対する有給休暇(年次有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定めるものを当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

(六)対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

(七)使用者は、同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

(八)(一)から(七)までに掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
2.1の届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、1の(四)及び(五)の措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならないものとすること。
3.企画業務型裁量労働制の委員会に関する事項は、1の委員会に関する事項について準用するものとすること。
労働基準法の当事者は労働者と使用者(経営者)です。その両者が理解し適用しやすくなるように法文は平易にすべきです。上記の法案要綱のように何が書いてあるかわからないような法文では当事者は非常に困ります。
〔2015年4月20日掲載〕